
近年、企業の成長力やイノベーションを大きく左右する要素として「チーム力」の重要性が改めて注目されています。
私自身、東京商事の人事担当やコンサルティング会社でのプロジェクト経験、そして独立後に多数の企業へチームビルディング研修を提供してきた中で、「どのようなチームが高いパフォーマンスを発揮しているのか」を長年にわたって観察してきました。
そして約30年にわたる実務経験と、日本企業30社以上への調査データから見えてきたのは、強いビジネスチームにはいくつかの明確な共通点があるということです。
本記事では、データと実践的な事例の両面から「強いチームが備えている5つのポイント」を示しつつ、それらをどのように自社の組織で活用できるかを体系的に解説していきたいと思います。
理論やフレームワークだけでなく、現場での体験や失敗事例を踏まえながら、みなさまのチームづくりに役立つヒントをお伝えできれば幸いです。
目次
高業績チームを定義するデータと指標
業績と組織風土の相関関係:日本企業30社の調査から
まず、なぜ「チーム力」が注目されるのでしょうか。
業績を左右するのは、個々人のスキルやリーダーの能力だけではなく、組織全体の風土や人間関係が密接に影響するからです。
私が独立後に実施した日本企業30社を対象とする調査では、以下のような興味深い結果が得られました。
- 「組織風土がオープンで意見を交換しやすい」と回答した企業ほど、1人当たりの営業利益が高い傾向
- 「チームでの相互学習を重視している」企業では、新商品リリースの速度が平均15%速い
- 「強いリーダーシップ」よりも「強いチームワーク」を重視している組織ほど、従業員エンゲージメントが高い
このデータから、「心理的安全性」や「目的の共有」といった組織風土の要素が、目に見える業績にも良い影響を与えていることが示唆されました。
チームパフォーマンスを測定する国際基準と日本的評価軸
チーム力を測定する指標としては、国際的に多用される「タックマンモデル(Tuckman’s stages of group development)」や、Googleのプロジェクト・アリストテレスをベースにした心理的安全性評価などがあります。
しかし、日本企業の場合は「暗黙の協力」や「横の関係の調整」がより重視される傾向が強く、欧米型の指標だけでは測りきれない部分も存在します。
そこで私たち「チーム・シナジー・ラボ」では、次の2つの視点も含めた独自の評価軸を導入しています。
- 和の文化とビジョンの融合度
組織全体が共有するビジョンと、日本企業特有の「和」の価値観をいかに融合させているかをチェック。 - 暗黙知の共有と形式知の変換頻度
日常の中で培われるノウハウを形式知化し、チーム全体で活用できる仕組みを持っているか。
定量的・定性的データの組み合わせがもたらす新たな視点
チームを評価するには、売上高や利益率といった定量的な数値だけでなく、マネジャーやメンバーへのインタビュー結果など定性的な要素も欠かせません。
とりわけ日本企業は「数字で測りにくい組織文化」の影響が大きいため、両面のデータを統合することでチームの強みや課題がより明確に浮かび上がります。
例えばある企業では、「朝礼に5分だけ全員で前日の課題を振り返り、新しい取り組みを共有する」という小さな工夫が、長期的に見て組織全体のコラボレーション力を押し上げる効果がありました。
このように、表面的には些細に見える取り組みが、定性的データで見れば組織風土に大きな変化をもたらしていることがわかります。
共通点1:明確な目的意識と価値観の共有
「和」とビジョン共有の両立:日本企業の成功事例
強いチームは、まず「共通の目的意識」を明確に打ち出しています。
特に日本企業の場合、従来から「和」を大切にする風潮があり、メンバー間の調和を優先しすぎてビジョンが曖昧になるケースも見受けられます。
しかし近年は、明確な指針を提示しながらも、各メンバーの多様な価値観を尊重するリーダーシップが求められているのです。
たとえば、製造業A社では「モノづくりを通じて社会を豊かにする」という創業以来の理念を大切にしつつ、現代のニーズに合わせて「持続可能な資源活用」と「グローバル標準の品質管理」を新しいビジョンとして掲げました。
各部門が具体的目標に落とし込み、同時に一人ひとりのアイデアや多様な背景を尊重する文化を築くことで、チーム全体の目標意識が大幅に向上したのです。
チームの目的を可視化する実践的フレームワーク
目的意識を全員で共有するには、以下のようなフレームワークが効果的です。
- ビジョンマップ
- チームや組織が目指す未来像を図式化し、キーワードやコンセプトを可視化する
- OKR(Objectives and Key Results)
- 全体のObjectiveを明確化し、それぞれのKey Resultsを定量目標として設定
- ロールプレイとストーリーテリング
- 理念や価値観を具体的なエピソードで語り、メンバーが感情移入しやすい形に変換
異なる価値観を持つメンバーの統合手法
多様な個性がぶつかるチームほど、新しいアイデアやイノベーションが生まれやすい反面、対立や不和の原因にもなりやすいものです。
そこで有効なのが「対話の設計」です。
特定のファシリテーション技術や、「1人1分間で意見を述べる」ルールを設定することで、全員の声を平等に引き出しやすくなります。
私が支援した企業の中には、週に1度の定例ミーティングに「和の時間」と称する15分を設け、メンバーが率直に意見を表明できる場を継続的に作り上げたケースがあります。
単純な施策ですが、長期的には対立を建設的に乗り越える土壌が育ち、結果的に組織全体の価値観が一本筋の通った形で共有されていきました。
共通点2:心理的安全性と建設的対立の文化
日本的「阿吽の呼吸」から明示的コミュニケーションへの転換
日本の組織では、「阿吽(あうん)の呼吸」で意思疎通を図る文化が根強くあります。
一方、国際的な研究やデータを踏まえると、チームの心理的安全性を高めるためには、やはり「明示的なコミュニケーション」を避けて通れません。
「阿吽の呼吸」も大切ですが、それだけでは多様化する現場のリアルな問題をカバーしきれない場面が増えています。
データが示す心理的安全性と業績の関連性
Googleのプロジェクト・アリストテレスでも示されているように、心理的安全性はチームの成功要因として最も重要な要素の一つとされています。
私自身の調査でも、「上司への意見具申や疑問点の共有がスムーズな組織ほど、イノベーションのペースが速い」という結果が出ています。
下記はチームの心理的安全性スコア(5点満点評価)と、課題解決速度(ある新規プロジェクトの成果)がどのように相関していたかをまとめた簡易表です。
心理的安全性スコア | 課題解決速度(平均日数) |
---|---|
4.0〜5.0 | 14日 |
3.0〜3.9 | 20日 |
2.9以下 | 27日 |
このデータからも、メンバーが遠慮なく意見を出し合えるチームほど、問題に素早く対応しやすい傾向があるといえます。
建設的な意見対立を促進するファシリテーション技術
しかし、心理的安全性を高めると同時に、全てが「波風立たずに穏やか」という状態を目指すわけではありません。
強いチームはむしろ「建設的な対立」を歓迎し、議論を活発に行いながら最適解を探ります。
そのために有効なのがファシリテーション技術の活用です。
- ラウンドロビン方式
発言順をあらかじめ決めて、一人ひとりが平等に発言できるようにする。 - デビルズ・アドボケイト(Devil’s Advocate)
敢えて反対意見を提示する役割を設定し、議論を深める。
このような方法を取り入れることで、たとえ意見が対立しても、チーム全体が「対立=生産的なプロセスの一環」と捉えやすくなります。
共通点3:役割の明確化と個の強みの活用
専門性と多機能性のバランス:チーム構成の最適解
チームにとって重要なのは、「誰が何を担当し、どのレベルの意思決定権を持つのか」を明確にすることです。
役割が不透明なままだと、責任の所在があいまいになり、結果としてスピード感が失われてしまいます。
一方で現場では、複雑化・高度化する業務に対応するため、多機能性を求められる場面も増えています。
理想は「専門領域をしっかり持ちながら、相互に補完し合う」という構造をチーム内に作ることです。
メンバーの強みを引き出すリーダーシップアプローチ
私自身が人事部門に在籍していた頃、研修でもよくお伝えしていたのが「1on1ミーティングによる個別支援」の重要性です。
メンバー一人ひとりの強みを正確に把握し、適切な業務アサインやキャリアパスを提供することが、チーム全体のパフォーマンスを最大化する近道になります。
- 定期的な1on1で強みと課題を共有
- プロジェクト配属時に得意分野を活用させる
- 失敗体験を本人の学習機会として活かす
こうした習慣が根付くと、メンバー同士も自然とお互いの強みを理解し合い、協力しやすくなるのです。
リーダーとしての心構えや具体的なチームマネジメント手法をさらに学びたい方は、「決定版 強いチームをつくる! リーダーの心得」もぜひご参照ください。
特別なカリスマ性がなくても、等身大の自分でチームをまとめる51の方法が紹介されており、成果を出すリーダーのセオリーを体系的に学ぶことができます。
世代間ギャップを強みに変える組織設計
昨今、日本企業では多世代混在のチームが当たり前になってきました。
例えばベテラン世代が持つ深い知識と若手のデジタルスキルを組み合わせることで、新しいアイデアが誕生するケースも少なくありません。
重要なのは、世代間のコミュニケーション障壁を「相互に学び合う機会」として認識し直すこと。
チームとしての役割分担を進める中で、自然と世代間の強みが統合されていくデザインを考えるのが効果的です。
共通点4:継続的な学習とフィードバックの循環
「暗黙知」から「形式知」への変換プロセス
日本企業には優れた現場力がある一方、その多くは「暗黙知」にとどまってしまい、組織全体で共有されにくい課題があります。
これを乗り越えるカギは、「ノウハウの形式知化とオープンな情報共有」です。
実際に研修で実践している方法の一つが、チーム学習サイクルを明確に回す仕組みづくりです。
具体的には、「業務が終わった後に、小グループでどのような学びがあったかをホワイトボードにまとめる」といったステップを定期的に導入するなど、意図的に対話と共有の場を設けることが挙げられます。
チーム振り返りの効果を高める構造化された対話法
「ただ話し合う」だけでは、振り返りが感想レベルで終わってしまいがちです。
ここでは、**KPT法(Keep, Problem, Try)**などのフレームワークを使うと効果的です。
- Keep(良かったことを維持する)
- Problem(問題点を洗い出す)
- Try(次回試してみたい改善策)
これを定例会議の一部として取り入れれば、振り返りの内容が整理され、次のアクションにつながりやすくなります。
失敗から学ぶ組織文化の醸成:事例と実践テクニック
特に日本企業では、失敗を避けようとする傾向が強い一面があります。
しかし、優れたチームは失敗を早期に共有して、そこから得られる教訓を組織全体に広げる文化を持っています。
ある企業では、「ファスト・フェイル・レポート」という取り組みを実践し、失敗事例をいち早く共有し合う仕組みを作りました。
失敗の責任追及ではなく、むしろ「学習のチャンス」として公に議論することで、挑戦意欲やリスクテイクの姿勢が高まったのです。
共通点5:適応力と変化への柔軟性
リモートワーク時代における結束力の維持方法
近年、リモートワークやハイブリッドワークが普及し、物理的に同じ場所で働く機会が減っています。
こうした環境下でも強いチームは、オンライン上でのコミュニケーションを工夫し、メンバー間の結束力を維持するための手段を独自に開発しています。
- オンライン朝礼やバーチャルランチ会
雑談や個人的なトピックを共有しやすくする - 進捗共有ツールの活用
誰がどのタスクを担当しているか、可視化を徹底する
危機的状況でのチーム適応力を高める訓練法
私がコンサルティングに入った企業の中には、自然災害や急な市場変動といった危機的状況を経験したケースも少なくありません。
こうした事態に備え、定期的に「シミュレーション演習」を行うチームほど、実際のトラブル発生時に慌てることなく柔軟に対応できるというデータも得られています。
演習では、意図的に複数の仮定シナリオを設定し、それぞれに対してチームがどう動くかを事前に決めておくのです。
これにより、リーダーやメンバーが意思決定プロセスを明確に理解し合い、非常時にもスムーズに連携できるようになります。
グローバル環境における日本的チームの強みの再定義
グローバル化が進む中で、海外の理論をそのまま導入するだけでは日本企業の強みを活かしきれない場面もあります。
一方、日本企業のチームは、長年培われてきた「場を大切にする精神」や「相手を慮るコミュニケーション」のおかげで、高い結束力を生み出すポテンシャルがあります。
重要なのは、外国人メンバーや海外拠点との連携でも通用する形で、それらの「和の強み」を明文化して提示することです。
必要に応じて英語版マニュアルを用意する、リモート会議でも日本独自の儀礼を簡単に紹介するなど、少しの工夫で大きな効果が期待できます。
まとめ
ここまで紹介してきた5つの共通点――
- 明確な目的意識と価値観の共有
- 心理的安全性と建設的対立の文化
- 役割の明確化と個の強みの活用
- 継続的な学習とフィードバックの循環
- 適応力と変化への柔軟性
これらは、私が提唱している「シナジー・チーム」モデルの基盤をなす要素でもあります。
各要素は互いに影響し合い、適切に統合されることで大きな相乗効果(シナジー)を生み出します。
もし自社のチームを診断したい場合は、以下のチェックリストを活用してみてください。
- チーム全体で明文化した目的・ビジョンはあるか
- メンバーが気兼ねなく意見を出せる空気があるか
- 役割分担や意思決定権限が明確に設定されているか
- 定期的に振り返りと学習の場が設けられているか
- 変化が起こったときに、迅速なリーダーシップと合意形成ができるか
いずれの項目も「はい」と言えない部分があれば、そこに改善の余地があると考えられます。
これからの日本企業は、デジタル化やグローバル化など、急速に変化する環境への対応を求められますが、同時に「和」の文化や暗黙知を活かす強みも十分に持ち合わせています。
チームビルディングにおいて大切なのは、どちらかを捨てるのではなく両立させること。
明確な指針と柔軟なコミュニケーションを軸に、さまざまな背景を持つメンバーが協働することで、ビジネスにおける新たな価値を創出できるはずです。
私自身も、今後さらにリモートワーク環境や異文化コラボレーションの分野を深めながら、日本のチームビルディングの可能性を追求していきたいと考えています。
みなさまの組織が、この5つの共通点を活かして一層の発展を遂げることを願ってやみません。
最終更新日 2025年3月1日